パラジウムが二倍以上に急騰した理由:安易な空売りは怪我のもと
ガソリン自動車の排ガス用触媒として利用されるパラジウム。商品先物取引の上場銘の一つ。2019年現在、非常に高騰していることをご存じでしょうか。
すでに、プラチナ価格を抜き去り、なんと金(ゴールド)に迫る勢いを示しています。
パラジウムが上昇している理由
◆東商の金・白金・パラジウムの価格
1gのパラジウムは、4,495円。下のグラフをごらんください。ゴルディロックスによる経済成長前は、2,000円以下で買えましたから、倍以上の上昇!
◆東商パラジウムの月足チャート 2019年2月8日 フジフューチャーズ
パラジウムとは
パラジウムについて。簡単にご紹介します。
金銀・プラチナと同じく貴金属の一つ。自動車の触媒・宝飾・電子部品・歯科などで利用されています。歯に詰める詰め物ですから、意外に身近かも。
そして、世界的な市場規模の小ささゆえに、今回のような、激しい値動きをすることがあります。
パラジウム「取引銘柄」 理論価格の換算値
◆「NYパラジウム」価格÷31.1035[グラム換算]×為替レート[ドル/円・円換算]
パラジウムの用途
そして、パラジウムの大事な用途は、歯科ではなく自動車の触媒。自動車の排ガスには、様々な有害物質が含まれており、大気汚染の元凶になることは、皆様、ご存知の通り。この有害物質を除去する触媒にパラジウムは利用。
同じ白金族の、プラチナ・パラジウムともに、触媒として有用な貴金属。ただ、今回、価格が高騰しているのは、パラジウムだけでプラチナは冴えません。
運命を分けたのは、欧州のディーゼル車不正事件の影響が大。相次ぐ欧州自動車メーカーの排ガス処理における不正で、ディーゼル車に対する規制が強まりました。そのため、世界的にガソリンエンジンと電気自動車の需要が増加。
結果的に、ディーゼル用のプラチナとガソリン用のパラジウムで(3元触媒として併用されるケースが多い)、価格の逆転現象が生じることに。パラジウムの需給は、危うく、しばらく供給不足の状態が続きそうです。
パラジウムの需給問題
何しろ、車が増えれば増えるほど、パラジウムの需要は高まります。車1台につき、約3~7gの白金系貴金属が必要との話。
今後、中国やインドなどの新興国での自動車生産量は増加すればするほど、パラジウム不足は深刻になります。逆に、自動車生産台数が減少すれば、需要面は一段落するということです。
なお、カナダの貴金属探査会社「ニューエイジメタル」は、2017年~2021年にかけて、触媒市場は、年平均8.05%成長し、市場規模は約551.6億ドルに達するとの予想。一方、2018年の中国自動車産業は、大きく減産。
パラジウムの供給はロシアと南アフリカに偏る
パラジウムとプラチナは、非常に貴重な貴金属で、限られた土地でしか生産できません。
しかも、南アフリカ・ロシア・北米の三地域に集中。そして、ロシアと南アフリカ両国のシェアが非常に大きいことが特徴。両国と政治経済的に不安定ですし、場合によっては、資源を武器にする資源外交すら行ってきます。
パラジウム供給の特徴は、供給ソースが限られていることであり、2012年の鉱山生産量では、ロシア(81.8トン)、南アフリ カ共和国(72.5トン)の2カ国で世界全体の約76%を占めております。フジフューチャーズ
2017年に、南アフリカ&ロシアにおける鉱山の技術・労働ストなどの影響で、少し供給不足に。鉱山からの新規生産は、2006年の228.8トンをピークに、減少しており、2018年は、206.9トン。
なぜパラジウムは、急騰したのか
それでは、パラジウムが急騰した理由をお話いたします。
- ●もともとの供給不足感
- ●世界経済の成長に伴う自動車生産増加:ゴルディロックス経済
- ●ディーゼル車からガソリン車へのシフトに伴うパラジウム需要の増加
- ●需給バランスの逼迫。現物の不足感は、2010年頃から出てきており、2018年は、41.トンの不足。
- ●供給不足を狙ったスクィーズ(玉締め)
- ●米国によるロシアの経済制裁:ロシアからのパラジウム供給不足
- ●米国のINF全廃条約破棄によるロシアとの関係悪化
このように、もともと需給バランスが崩れかけていたところに、自動車生産の増加や米ロの関係悪化などが絡んだこと。更に、投機筋の売買・思惑が重なっての動き。
※スクィーズ:空売り筋は、価格上昇に伴い、現物を引き渡すか踏み上げられての買い戻しの二択を迫られる。物不足で現物を引き渡せなければ、高値で買い戻すしかなく、価格がさらに上昇する。
◆1990年後半のパラジウム急騰時におけるチャート:上昇あとに解け合いで急落
ファンドや商社・自動車会社によるパラジウムの現物買いに対して、個人投資家の値ごろ感による売り。500円前後だったパラジウム価格は、3,500円を超えるレベルまで急騰し、多くの個人投資家が損を出しました。最終的には、東工取による強制解け合い(両者強制手仕舞い)で、相場が終了。
パラジウムの空売りはリスク大
パラジウム相場、価格の動きを見ている分には、面白いのですが、手を出すと危険な香りがぷんぷん。
欧州は、2040年までにガソリン車を禁止し、電気自動車にする計画。中国も、2030年までにという目標を立てています。しかし、それまでは、従来のガソリン車を使うしかなく、大気汚染を減らすためにも、パラジウム触媒は、必須。
一方、好調だった世界経済は、2018年に陰りを見せ始めており、2019~2020年には、減速するリスクが高まっています。そのため、いつまでもパラジウムが高騰するとは考えにくいところです。しかし、先程、書きましたように、空売りはスクィーズの餌食になりかねません。そのため、パラジウムが高騰しているからといって、天井狙いや値ごろ感の空売りは避けておいた方が良いと思います。